「生活や経済活動は必ず自然と繋がってくる」 環境省北海道環境パートナーシップオフィス 吉村 暢彦 さん@
「芯を通して企業は環境と経済の両立を探って欲しい。スタートが省エネでも環境マネジメントでもいい。最終的に商品開発とか、企業戦略の中心に据えられるようなアイデアを持って欲しいし、一緒に考えられたら」とCSRやESD、生物多様性などをキーワードに環境・CSRの促進活動を展開する吉村さんにお話を伺いました。

子どもの頃に虫取りをした空き地が原点
 
___環境省北海道環境パートナーシップオフィス(以下、EPO北海道)で、環境保全活動やCSR(企業の社会的責任) の促進などに取り組まれている吉村さんですが、EPO北海道のお話をお聞きする前に、環境活動をするきっかけというのをお話ししていただけますか?
 
[吉村] 未だに覚えているんですけど、6〜7歳のころ、家の近くに虫取りをよくしていた空き地があったんです。突然そこにブルドーザーがやってきて、宅地か駐車場をつくるために壊しますってなったんですよ。当時は、将来、昆虫学者になりたい!って思うくらい虫が好きで、それを知ったときには「虫の棲む、この遊び場が無くなる!」ってすごく腹が立ったし、同時に、なんだか寂しい気分にもなりました。今思えば、その時の記憶が環境への目覚めだったんじゃないかと思います。

その後、小中高と進むに連れて、環境への関心は薄くなって…酸性雨くらいは知ってましたけど。大学への進学の時は将来なんか全然考えていなくて、飛行機に乗れるからって北海道を受験して、定員の多いところなら受かるかもって理工系を受けたんです。入学後は体育会の部に入って脳ミソ=筋肉みたいな時間を過ごしていましたが、2年生の終わりに学部をしっかりと決めなきゃならない時になって始めて考えて、兄の影響もあって、理工系にいたのに農学部に入ったんです。まあホントの理由は理工系だと女の子が少ないからなんですが…。そんなことで次第に環境関連って将来の方向性が定まってきたという感じでしたね(笑)。
 
___吉村さんは九州の福岡県出身でしたよね。
 
[吉村] はい。高校卒業して北海道に渡ってきました。

その後、日本製紙に就職して宮城県の石巻工場に配属になりました。日本製紙は持続可能な森林経営を実現する「ツリーファーム構想」というのを掲げていて、原料調達のための畑のような輪作を行う森をつくっていました。ツリーファームは、オーストラリアとかチリとかにありますよ。ただ、入社したときには国内の社有林の管理がしたいと思っていましたが、メインの部門ではなかったので、社有林の管理に新人が配属されることもなく、工場で海外からのチップ受け入れの管理をしていました。

工場勤務をしているとずっと先が見える気がするんですよ。5年後には、10年後には、なんて。実際そんなことはないのですが…。若気の至りで野心が生まれて、環境コンサルの会社を作ろうと北海道に戻ってきたんです。それからどっぷりと浸かっているという状況ですね(笑)。なので、EPO北海道に入る前はどちらかというと事業系だったので、僕個人としてはNPO・NGOっぽい動きはしていませんでした。
 
CSRは本業だ!
 
[吉村] CSRに関わったというのもEPO北海道に入ってきてからなんですよ。

EPO北海道の立ち上げの時に検討委員会で、下川町在住の委員の方が下川町の持続可能な森林を活かしたまちづくりを考える上でCSRは重要なキーワードだって仰っていて、それからCSRがEPO北海道の事業の柱になりました。

まだCSRって言葉も北海道では浸透していなかったと思うので、シリーズもののセミナーを開催しました。札幌大同印刷(以下、大同印刷)さんにも発表して頂いた第2回セミナー(中小企業におけるCSRがテーマ)で、恥ずかしながら自分自身も整理できました。
 
___この時に企業の取り組みを見聞きして、吉村さんのCSRに対しての方向性が定まったということなので、お役に立てて光栄です(笑)。
 
[吉村] その節はありがとうございました(笑)。

それで、このCSRセミナーの中で、大阪大学の金井一ョ教授が「CSRは本業だ!本業だ!」って言っていて、事業そのもので実施すること、そして環境を利益に繋げることが企業にとっては重要なんだ!って悟りました。
 
___私も金井教授のCSRの解説は解りやすく、とても参考になったのを覚えています。
 
[吉村] 金井教授の講演聞いて、その後、向山塗料さん、町村農場さん、大同印刷さんの事例発表を聞いて、「あっ、みんな事業に繋がっている!」って思ったんですよ、実は(笑)。

あのセミナーの後に産地偽装のような企業の不祥事が続いて、世の中にCSRと言う言葉が広がり始め、コンプライアンスがどうのこうのというのが普通に世間に出るようになったじゃないですか。で、その時に社会貢献じゃなくて、本業が、社会や環境にインパクトを与えている、または与える可能性のあることに対して責任を持って行動しないと社会は納得しないんだなって雰囲気を感じました。それから「大企業も中小企業も関係なく社会に対する責任を本業でしっかり果たすってのが筋だよなー」って実感が生まれてきましたね。

法人を個人に置き換えれば分かりやすいと思うのですが、口で良いこと言っていても、実際には何もやってなかったら「あの人は口だけだ!」ってなりますよね。結局「良い法人ってなんだ」って考えると、CSRってすごくシンプルに考えることができると思います。
 
相容れないところを認識するのが最初のCSR
 
___次にEPO北海道の活動についてお話をお聞きしたいと思いますが、まず活動目的をお話していただけますか?
 
[吉村] 今、環境業界はお金も人も無い状態じゃないですか。じゃあどうやって解決しようかってところで、結局それぞれの出来ること出来ないことをしっかり穴埋めして、繋いでいくしかないですよねっていうのが発端なんです。
 
___それは、企業も市民団体も同じということですね。
 
[吉村] そうですね。で、やりたいことをやるにもリソースが限られている中で、最大効率を出すにはパートナーシップというのが大事です、というところが大きな目的になっています。
 
___では、目的のためにどのような活動を行われているのですか?
 
[吉村] それぞれの地域で起こっている事例とか、こんな人がいた、というようなことを取り上げて伝えていくことですね。
 
___口コミによるパートナーシップへのきっかけ作りですね。
 
[吉村] そうですね。釧路に行ったら網走や稚内のことを話したり、会う人会う人に嫌っていうほどに話しまくってますね(笑)。それが一番メインの仕事なのかなって思います。

基本的には、相互補完のためのパートナーシップになればいいなってことでお話をしていますが、その人との話を整理するポイントとしてCSRがあったり、ESDがあったり。その他、いろいろな環境のキーワードを使いながら話をしているという感じです。そしてその延長線上で、セミナーを開催したりしています。共通点づくりって考えた方がいいかもしれませんね。CSRや環境保全活動を突き詰めていくと、どこかと手を組まないと出来ないところが出てくるはずですが、共通のキーワードがあれば一緒にやろうよという発想も生まれやすくなると思います。
 
___パートナーシップは企業と市民団体に限らず、企業と企業でも市民団体と市民団体が手を結んだってよい訳ですしね。
 
[吉村] そう思います。相手はどこでもいいと思います。必要な相手なら。分野は関係なしです。
 
___吉村さんなりのCSRの解釈というのはありますか?
 
[吉村] まぁCを取ってSRで良いと思うんですよ。皆さん、必ずやめられないことがあると思うのですが、企業であれば製品やサービスをつくることはやめられないだろうし、個人だったらこの趣味はやめられないなんてのもあると思います。例えば走り屋だったら車で走れなくなったら嫌ですよね。どんな活動でも必ず環境にインパクトを与える側面があるはずなんですが、自分がやめられないことが、どんなインパクトを与えているかをしっかり認識するのがSRのスタートではないかと思います。

じゃあ、自分の与えているインパクトをどうしていこうか?ということを企業について考えていけば、CSRっていうのが自ずと見えてくると思っています。ただ、インパクトを与えている範囲が意外なところにまであるということを認識して把握していくことは労力もかかるし難点も多いので、「なんか難しいもの」になっているのではないかと思っています。

これは、何も企業だけではないと思いますね。個人も市町村も都道府県も国にも同様のことを考えないといけないと思います。以前、釧路市がCSRという言葉を使い始めて、行政全体がCSRを考えるんだって打ちだしたんですね。Cではないとは思いますが、社会のSR事業するのが行政の役割と思っていましたのであり方を再確認したんだなって思いました。
 
ESDとは問題解決の垣根を取り払うキーワード
 
___ESD(国連持続可能な開発のための教育の10年)というキーワードが出てきましたけど、これはどうのような取り組みなのかお話ししていただけますか?
 
[吉村] ESDというのは2005年から始まっています。分野を超えたつながりを考えていこうというものです。

環境問題にしても、福祉の問題にしてもそれぞれに出来ることは限られていて、実は環境と福祉では、問題の構図が似ている場合が多かったりするんです。「人、物、お金がありません」とか、「経済構造が官に頼っている」とか、問題の根本が似てる場合がある。その垣根を取っ払えば、お互い相互補完できる場面がでてくる可能性がある。

例えば、福祉施設で、ゴミ拾いやリサイクル活動をやっていたりしていますので、そんな活動がそれらを専門とする環境団体や企業とつながっていけば、活動に経済性がでてきたり、発展できる可能性がでてきます。 もしかしたら、環境分野では解決できていない課題を、他分野で解決している事例があるかもしれない。分野の壁を取り払って交流を促し、問題の解決や次へのアイデアを生み出していきたいというのがESDの大きなところと思っています。

ただ、EというのはEducationの略なので教育活動なんですよね。教育っていうと対象は子どもってなりがちですけど、そうじゃなくて大人も含めて触発しあうという教育が基本でいろんな問題解決に係る学舎みたいなのがESDということなんです。

垣根を取っ払うというのがEPO北海道に大きく関係するキーワードというところですね。
 
___パートナーシップのツールの一つということですね。
 
[吉村] そういうことになりますね。

以前、環境活動の人が集めた古着を寄付するところを探していて、福祉団体が予算の関係で活動に使う布を必要としていて、古着を集めたい人たちと欲しい人たちを繋げたことがあったんです。実はこういう活動を打診するときに「ESDというものがありまして…」と言うと、「なんだそれっ!」てなって詳しく話を聞いてくれたり、上の人に話を通してくれたりすることもありました。
 
___私が環境担当という立場だからかもしれませんが、他企業などの活動でもちょっと見方を変えると、これも環境活動に繋がっているんじゃないかということはありますね。

企業も環境担当者もISOという観点に捕らわれてしまうと視界が狭くなってしまいますが、ESDというフィルターを通して視野を広げることで見方が変わると言うことですね。
 
[吉村] そうですね。ESDという考えを皆さん知っていればなぁと思いますね。勝負に勝つ常套手段じゃないですけど、事前にどれだけ情報収集しているかで勝率が上がりますよね。良い活動をしていくにはやはり自分の分野の情報だけではだめだと思うんですよ。分野を越えれば、ハッとするアイデアやモデルがある場合が多い。みんな知ってることを知っているだけだったら何も生み出せないと思います。
 
___函館でもESDをテーマに活動していますよね。函館の友人に聞いた話ですが、そろそろ自分たちで自立して進めて行けるんじゃないかという人たちもいるそうで、そう言ったESDによる種が北海道の各地で芽を出し始めているということを考えると、EPO北海道がESDをキーワードに活動してきた成果が見えてきたという感じですね。
 
[吉村] やってる人はすでにやっているがESDだと思うので、成果って言ったら申し訳ないですよ。ただ、あくまでも僕なりの解釈ですけど、ESDは生き残っていく知恵としてすごく良いなぁと思いますね。知らない人は知らないと損ですよ!
 
 
次回パート2では生物多様性による新しい展開や環境と経済のお話をして頂きます。
 
▲環境省北海道環境パートナーシップオフィス(EPO北海道)
持続可能な社会の形成を目的として、環境保全活動を促進する基盤づくりを目的に活動する環境省のプロジェクト。

EPO北海道 http://www.epohok.jp/
北のCSR http://www.epohok.jp/hcsr/
 
▲CSR〜企業の社会的責任〜
CSR(Corporate Social Responsibility)は「企業の社会的責任」と訳され、企業が利益、経済合理性を追求するだけではなく、ステークホルダー(利害関係者)全体の利益を考えて行動すべきであるとの考え方で、環境保護のみならず、法令の遵守、人権擁護、消費者保護などの分野についても責任を有するとされている。
▲CSRセミナー
第2回CSRセミナー「中小企業のCSR活動を考える」2006年9月25日(月)主催:EPO北海道 中小企業の環境への取り組みにスポットを当て、いかに事業の中に環境の視点を盛り込んでいくのかを探ることを目的とし、中小企業におけるCSRの考え方の講演を大阪大学金井教授に、事例発表として中小企業の取り組みを向山塗料株式会社、有限会社町村農場、札幌大同印刷株式会社の3社が発表した。
 
活動の様子
▲ESD(国連持続可能な開発のための教育の10年)
持続可能な開発の実現に必要な教育への取り組みと国際協力を、積極的に推進するよう各国政府に働きかける国連のキャンペーン(2005年〜2014年)。
活動の様子

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